「日本最古の●●!」「弥生時代の人骨が多数発見!」など遺跡のニュースを見たときに「なぜ時代がわかるのか?」と疑問に感じないだろうか。発掘された遺跡が何年前のものか調べる方法について、本記事でわかりやすく解説しようと思う。
時を調べる方法は色々あるが、本記事では代表的な方法を3つ紹介しよう。
- 土器編年
- 放射性炭素年代測定
- テフラ年代学
では、さっそく順番に解説しよう。
土器編年
土器が時を知る手がかりとなる。たとえば縄文時代という時代区分は約1万年以上という長い期間である。縄文時代の時代区分は土器の型式学と層位学によって編まれてきた。その基礎を作ったのは「縄文学の父」と呼ばれている山内清男先生(1902- 1970)である。
更新世末から完新世にかけての,おおよそ1万年間にわたって,北海道から沖縄までの採集・狩 猟・漁携民が作り使った土器が縄文土器である。縄文土器の年代的変遷を明らかにした編年体系は 世界の先史土器の中でもっとも細密なものと世界的な評価をうけている。その基礎をつくったのは 山内清男,甲野勇,八幡一郎らの1930年代以来の仕事である。なかでも山内の業績は,その後今日 にいたるまで大きな影響力をもちつづけてきた。土器を基準として年代の尺度を作り,それに基づ いて生活文化・社会の変遷を追い,地域性を明らかにするというその研究方法は,縄文時代のみで なく弥生・古墳~江戸時代にまで活用され現在にいたっている。
春成秀爾(1999)「日本における土器編年と炭素14年代」国立歴史民俗博物館研究報告 第81集
上記のように土器から編成する時代区分は歴史時代の時代区分とは性質が異なり、先後関係を意味しているにすぎない。土器編年による時代区分は西暦何年や、時期幅が何年と特定することができないため、相対年代と呼ばれている。また研究者により土器編年の考え方は異なり、また地域によって様々な区分が存在するため、全国で統一された編年表はない。
放射性炭素年代測定
土器編年では具体的な年代を示せないことが大きな課題であった。その課題を解決する方法として1951年に日本考古学で初めて炭素14による年代測定が実施された。土器編年が相対年代と呼ぶのに対して、炭素14による年代測定は絶対年代と呼ばれている。
炭素14による年代測定の原理を簡単に説明する。大気中の炭素には、放射性同位体のC14がわずかに存在している。放射性同位体とは原子核が不安定なため、なんらかの放射性物質を出しながら崩壊し別の原子になる同位体のことである。放射性同位体がもとの半分の量になる期間を半減期という。そしてC14の半減期は5730±40年とされている。地球上の生物は生きているあいだC14をとりこんでいるが、死んだときに供給が絶たれ半減期にしたがい体内のC14が減少する。この法則を利用し遺跡に残された有機物がいつ生きていたのか測定している。
西暦1950年を基点とする年代であり、500yBPならば西暦1450年、2000yBPならば紀元前50年です。現在の技術では5万年前程度までの年代を測ることができます。
地震調査研究推進本部事務局(文部科学省研究開発局地震・防災研究課)「用語解説」
放射性炭素年代測定法の課題
炭素は生物を構成する主要な元素であり、適用できる試料が多い。そのため世界の環境変遷史や考古学などに多大な貢献をしてきた。最近では加速器質量分析計(AMS)を使用すると、炭素1~2㎎でも測定が可能である。また、年輪や土器編年との比較により、その年代値を検証できる。しかしこの方法は万能ではない。問題点を引用から述べたい。
① C14生産率の変動;C14年代測定は、地球大気上層で宇宙線N14との衝突によるC14生産率が一定という仮定のもとで成り立つ。しかし後述のようにこの生産率は一定ではない。その原因は地磁気、太陽活動の変動にあると考えられている。
町田洋ほか2003「第四紀学」朝倉書店P34
② 同位体分別:(略)たとえば大半の陸上植物とくにC3植物は、光合成の際C12を多く取り込むが、海水はC14を多く吸収する。この影響は高精度で年代を求める場合には大きいので、年代測定資料のC13/C12を質量分析器で測り、標準資料(PDB)との濃度差の比δC13を平均ー25‰とすると、これとの差はδC13 1‰違うと16年、試料の種類によっては最大400年に達する。
半減期
放射壊変によってC14が元の量の半分に減少する時間(半減期)は、Libby(1952)では5568±30年とされたが、その後5730±40年と精密測定された。しかし前者の半減期で計算・公表された年代値がすでに多数あるので、混乱回避のため、国際的には前者を用いて計算することが合意されている。また年代値はAD1950から数え、BPをつける。後述の暦年への換算にはこれを用いる。なお、このLibbyの半減期から新しい半減期を用いたC14年への換算には1.03を乗じる。
町田洋ほか2003「第四紀学」朝倉書店P34
以上のように、絶対年代測定の手法として主流である放射性炭素年代測定は、課題も残されていることがわかる。
暦年代への換算
放射性炭素年代測定は、放射性炭素の量を測って年代値を計算する。それは暦年ではないので、ほかの年代決定法とクロスチェックして暦年に換算する。
樹木の年輪と化石サンゴについて年輪年代とウラン系列年代を測り、かつC14年代を測って相互に比較(クロスチェック)すると、不規則なずれが認められる。このうち年輪年代は欧米では古くから研究され、過去11ka余の年輪年代が明らかになってきた。また、サンゴのウラン系列法もTIMS法により、信頼の高い暦年を与えると考えられて、ともにC14年代を暦年(cal yBPと表記 )に換算する場合の基準とされる。
(略)
こうした研究の結果、とくに晩氷期と後氷期の境(完新世/更新世境界:新ドリアスYD期終末)は、従来の10kaBPではなく、11.1~11.6ka cal. BPが採用されるようになった。こうした暦年換算は、最終氷期最盛期から晩氷期にかけての諸問題(たとえば日本の縄文時代)の年代決定と深く関わる。
町田洋ほか2003「第四紀学」朝倉書店P34
kaとはkiro annumのことで地質学年代の単位です。
意味は1000年前です。
年代測定を実施し、土器編年と対比させた図を示す。上記で説明してきたようにC14年代測定が抱える課題を含み表現されている年代幅を線で表現してある。元の論文ではより確からしい年代がわかるよう表現されているが、本記事では解説記事のため分かりやすく簡略化している。
放射性炭素年代測定は、研究が続けられており去年には較正曲線の最新版がリリースされました。
炭素14年代法では,較正曲線を用いて炭素14年代を暦年代に修正します。較正曲線は年輪年代法などで年代の判明した資料の炭素14年代に基づいて整備され,IntCalは日本を含む北半球の陸上資料に適用される汎用的な較正曲線です。
国立歴史民俗博物館 プレスリリースIntCal20較正曲線に、日本産樹木年輪のデータが採用されました
較正曲線は数年ごとに改訂され,2020年8月には多くの新データを反映した較正曲線「IntCal20」が公開されました(Reimer et al., 2020, DOI: 10.1017/RDC.2020.41)。
新しい較正曲線「IntCal20」は、日本産樹木年輪の挙動に合わせた形になった。これにより弥生時代から古墳時代の年代がより高い精度で求められるようになる。過去に計測した年代がこれにより大幅に見直しがされる可能性も高いようだ。今後の動向に注目したい。
テフラ年代学
テフラとは火山の噴火に伴って噴出した溶岩を除く火砕物のことである。テフラ(tephra)はギリシャ語で灰を意味している。1976年に町田洋先生が公表した「姶良Tn火山灰(AT)」に代表される広域火山灰は過去に起きた巨大噴火により列島中に厚く降り積もっている。火山が噴火した年代がわかっていることから、テフラを特定することで年代が特定できる。
火山灰については、火山灰(火山ガラス)の色・形や鉱物組成、それらの屈折率等を調べ、既知の火山灰と対比することで火山灰を同定し年代指標とします。特に、広域火山灰(広域テフラ)と呼ばれる巨大噴火に伴う火山灰が重要な指標となっています。約7千3百年前の鬼界アカホヤテフラ(K-Ah)、およそ2万8千年前の姶良丹沢テフラ(AT)、8万5千~9万年前の阿蘇-4テフラ(Aso-4)が有名です。2011年東北地方太平洋沖地震を機に貞観の津波(西暦869年)がよく知られるようになりましたが、この津波堆積物が広域に評価できるのは、貞観の地震後に起きた大規模な火山噴火(西暦915年十和田火山の噴火による十和田aテフラ)の火山灰が指標として使えるからという側面もあります。
地震調査研究推進本部事務局(文部科学省研究開発局地震・防災研究課)「用語解説」
日本考古学でテフラによる層位学が最初に認識されたのは1818年頃といわれている。その後各地の研究者が影響を受け、1925年には神奈川県平塚市万田貝殻坂遺跡で降下テフラ層の記述がみられる。その後、日本列島全体に及ぶスケールで分布する広域テフラが数多く発見され、広域テフラを時間軸として広域な編年が試みられるようになった。
代表的な過去10万年の広域テフラ分布図を下記に示す。
▲が火山であり、各火山の記号と名称は次の通り。Kc:屈斜路、S:支笏、To:十和田、D:大山、A:姶良、K:鬼界、B:白頭山(中国と北朝鮮の国境にある火山)
各広域テフラは様々な手法で年代が測定されている。年代の根拠は引用している文献にレビューが掲載されている。考古学でよく活用されているテフラは太字にした。
広域テフラの名称と記号 | 年代 ※kaは1000年前 |
---|---|
阿多 Ata | 103~109ka |
御岳第1 On-Pm1 | 約98ka |
鬼界葛原 K-Tz | 98±52ka |
阿蘇4 Aso-4 | 86~90ka |
大山倉吉 DKP | 43ka~62ka |
支笏第1 Spfa-1 | 39.5~40.1ka |
クッチャロ庶路 Kc-Sr | 33.6±0.58ka BP |
十和田大不動 To-Of | 31~33ka BP |
姶良Tn AT | 約29cal ka BP |
十和田八戸 To-H | 約12~14ka BP |
鬱陵隠岐 U-Oki | 約10.7ka |
鬼界アカホヤ K-Ah | 約7.3cal ka BP |
白頭山苫小牧 B-Tm | AD946 冬 |
このように年代が判明しているテフラ層を鍵として、遺跡から出土する遺物の年代を特定することができる。
まとめ
今回解説した「時を調べる方法」は、代表的な下記の3つ。
- 土器編年
- 放射性炭素年代測定
- テフラ年代学
地層の重なり方をヒントに解明する土器編年とテフラ、そして絶対年代測定である放射性炭素を時計として用いて時代を特定しているのだ。放射性炭素年代測定は2020年に新しい較正曲線「IntCal20」が発表されたため、特に弥生時代や古墳時代は少し年代が前後する可能性が出てきている。今後の動向に注目したい。
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