序論:日本列島に刻まれた「地球の呼吸」
カルデラとは大規模な噴火によって地面が陥没した直径2㎞以上の穴である。カルデラ火山の周期は多くが1万年以上と長い。カルデラは、地球が用意した『巨大なスープ鍋』のようなものだ。日本には観光名所となっているカルデラが各地にある。普段、私たちはその鍋の縁(外輪山)に守られ、中から湧き出す栄養たっぷりのスープ(温泉や湧水)を楽しんでいる。しかし、鍋の底では常に火(マグマ)が燃え続けているのだ。 数万年に一度、鍋の底が抜けるような大噴火が起きると、中身が一気に溢れ出し(火砕流)、辺り一面を覆い尽くす。その後、地表がすとんと落ち込んで、また新しい「鍋(カルデラ)」が作られるのだ。私たちは、この「熱い鍋」の上で、自然の機嫌を伺いながら、たくましく暮らしを営んでいる。
とくに九州と北東北から北海道にかけては第四紀後期(約260万年前以降)の中でも比較的新しい大型カルデラ火山が集中している(北から屈斜路,支笏,洞爺,十和田,阿蘇,姶良,阿多,鬼界)。
前野 深「カルデラとは何か : 鬼界大噴火を例に」科学 84 (1), 58-63, 2014-01
本記事では日本各地にあるカルデラを概観する。
「日本終了」のシナリオ:巨大カルデラが秘める破壊力
過去15万年間に、日本列島では少なくとも14回の「超巨大噴火」が発生した。もし現代において、九州のカルデラでVEI(火山爆発指数)7以上の噴火が起きれば、それは単なる災害を超えた「近代国家の存亡に関わる事態」となる。
完新世世界最大の噴火
過去15万年間に、日本列島では少なくとも14回の「超巨大噴火」が発生した。もし現代において、九州のカルデラでVEI(火山爆発指数)7以上の噴火が起きれば、それは単なる災害を超えた「近代国家の存亡に関わる事態」となる。
• 完新世世界最大の噴火: 鹿児島県沖の鬼界カルデラが約7300年前(縄文時代)に起こした「アカホヤ噴火」は、過去1万年間で地球上最大の噴火であったことが近年の海底調査で判明した。火砕流は海を渡って九州を焼き尽くし、南九州の縄文文化を壊滅させた。
• 阿蘇カルデラの威力: 約9万年前の阿蘇4噴火(Aso-4)では、火砕流が九州の北半分を覆い、火山灰は北海道にまで達した。
• 現代文明の脆弱性: 巨大噴火が発生した場合、微細なガラス質である火山灰が発電所のフィルタを詰まらせ、全インフラ(電力、上下水道、通信)が物理的に停止する。わずか数センチの降灰で交通網はマヒし、日本全体が救援不可能な状況に陥る。
大地の贈り物:カルデラがもたらす豊かな恵み
一方で、カルデラは人々に計り知れない恩恵をもたらしてきた。破壊的な力は、長い年月を経て豊かな資源へと姿を変える。
• 湧水と農業: 阿蘇カルデラ内には約7万人が定住し、中央火口丘群からの豊富な伏流水が田園を潤している。白川水源などの湧水群は生活用水の100%を賄い、高品質な「あか牛」や米を育んでいる。
• シラス台地の活用: 姶良カルデラ噴火による火砕流堆積物は「シラス台地」を形成した。水はけの良さを活かしたサツマイモ栽培のほか、新素材「シラスバルーン」として断熱材や洗顔料にも利用されている。
• ジオパークと観光: 北海道の洞爺カルデラや屈斜路カルデラは、国立公園や世界ジオパークとして保護されている。火山の熱は温泉を湧出させ、美しい景観とともに地域の観光産業を支えている。
レジリエンスの象徴:青ヶ島「還住(かんじゅう)」の物語
カルデラと共生する日本人の精神性を象徴するのが、伊豆諸島の青ヶ島である。青ヶ島は外輪山の中にさらに内輪山を持つ、世界的にも珍しい二重式火山である。
• 天明の大噴火: 1785年、激しい噴火に見舞われた島民は、隣の八丈島へ全島避難を余儀なくされた。
• 50年越しの帰還: 避難生活は50年以上に及んだが、名主・佐々木次郎太夫らの尽力により、島民は「故郷への想い」を原動力として再び島への定住を果たした。このプロセスは「還住」と呼ばれ、現代の災害復興における「自立」と「地域社会の持続」の原則を先取りした歴史的事例として評価されている。
結論:地球の息吹と共に歩む
近年の研究では、箱根カルデラが単一の巨大噴火ではなく、複数の小型カルデラの集合体として形成されたというパラダイムシフトも起きている。また、鬼界カルデラの地下では現在も巨大なマグマ溜まりが成長している可能性が指摘されている。
我々は、数万年に一度の「リスク」を科学的に注視しつつ、そこにある「恵み」を大切に受け継いでいかなければならない。カルデラを巡る旅は、人間が地球という壮大な生命体の一部であることを再確認させてくれる。
カルデラの詳細を地域ごとに下表にまとめた。
北海道・東北・北関東のカルデラ
| ID | 名称 | 都道府県 | 所在地 | 備考 |
| 1 | 屈斜路 (くっしゃろ) | 北海道 | 川上郡弟子屈町 | 約3万年前に噴火活動の後、火山が円形に陥没するという激しい地殻変動を起こした。 |
| 2 | 阿寒 | 北海道 | 釧路市 | 約15万年~20万年前の激しい火山活動で3回の大規模火砕流が噴出し,形成した。その後,2万年前~5万年前頃に雌阿寒岳が噴火を開始。 |
| 3 | 倶多楽 (くったら) | 北海道 | 白老郡白老町 | 約8~4.5万年前までに複数の火口で火砕流を伴う大規模な噴火が繰り返され、約4万年前までの活動により直径3kmの円形のカルデラを生じた。 |
| 4 | 十和田湖 | 青森県 | 十和田市 | 約20万年前から活動をはじめた十和田火山は、約5万5千年前から1万5千年前の間に、大規模な噴火を繰り返した。少なくとも3回の火砕流噴火によって陥没が進み、約1万5千年前に現在の十和田湖の原型であるほぼ四角形のカルデラが形成された。 |
| 5 | 宇曽利山湖 | 青森県 | むつ市 | カルデラの形成時期はMIS8(約30万年前)以前と推定される. ー桑原ら(2001)火山第46巻第2号37-52頁 |
| 6 | 田代平 | 青森県 | 青森市 | 約200万年前の八甲田の火山活動によって生まれたカルデラ湖の跡 |
| 7 | 鬼首カルデラ | 宮城県 | 大崎市 | 生成した時期には諸説ありますが,約20万年前(更新世後期)まで,というのが最も有力 |
| 8 | 森吉火山山頂カルデラ | 秋田県 | 北秋田市 | 森吉火山は第四紀更新世中頃に活動を開始した東北日本那須帯に属する火山である。山頂部に径約3kmの陥没カルデラを持ち,その形成を境に活動様式・構成岩石の岩石学的性質が著しく異なる。ー中川(1983)岩石鉱物鉱床学会誌78, 197-210, |
| 9 | 秋田駒ヶ岳 | 秋田県 | 仙北市 | 約11000~13000年前に、山頂付近から噴火が発生し、南北2つのカルデラが形成された。 |
| 10 | 向町盆地 | 山形県 | 最上郡最上町 | 主要な形成史は今話題のチバニアンの時代(77.4~12.9万年前)が舞台。-柴崎(2020)砂防学会研究発表会概要集 |
| 11 | 肘折カルデラ | 山形県 | 最上郡大蔵村 | 宇井・他(1973)、 Miyagi(2004)による肘折の活動年代分析値から、おおよそ1万年程度前に活動があったと考えられる。 |
| 12 | 雄国 | 福島県 | 耶麻郡北塩原村 | 約50万年前の猫魔ヶ岳の火山活動によって誕生した。 |
| 13 | 沼沢 | 福島県 | 大沼郡金山町 | 沼沢の形成は約11万年前のプリニー式噴火に始まり、数万年間隔でプリニー式噴火とデイサイト溶岩ドームの形成を繰り返している。約5400年前に「沼沢湖火砕流」を噴出すると共に,カルデラ湖(沼沢湖)が形成した。 |
| 14 | 赤城山 大沼 | 群馬県 | 前橋市 | 約7~5 万年前の間のいずれかにデイサイト火砕流の流出と湯ノ口軽石の噴出によって山頂カルデラ(南北4km×東西3km)を形成した。 |
名称のリンク先は国土地理院の火山による地形サイト
関東・中部のカルデラ
| ID | 名称 | 都道府県 | 所在地 | 備考 |
| 15 | 三原山 | 東京都 | 大島町(大島) | 5〜7世紀の噴火で山頂部が陥没し、直径3〜4.5㎞のカルデラ地形となった。標高764mの三原山は1777〜1779年の安永の大噴火の際、カルデラの中に生まれた。 |
| 16 | 箱根古期カルデラ | 神奈川県 | 足柄下郡箱根町 | 約25万~18万年前に山体中央部直径八キロメートルの部分が陥没し、カルデラが生じた。 |
| 17 | 箱根新期カルデラ | 神奈川県 | 足柄下郡箱根町 | 約6.6万年前から4.5万年前にかけて、大噴火によって新期カルデラが誕生。 |
| 18 | 湯河原カルデラ | 神奈川県 | 足柄下郡湯河原町 | 約23万~13万年前に形成。カルデラの北尾根は箱根古期外輪山に接している。 |
| 19 | 妙高カルデラ | 新潟県 | 妙高市 | 約2万年前から現在の山頂に見られるカルデラの形成が始まった。 |
| 20 | 立山カルデラ | 富山県 | 富山市,中新川郡立山町 | 立山カルデラは大規模な火山活動に起因した陥没地形ではなく、火山堆積物の脆弱な山体が浸食によって失われた侵食地形であると考えられている。ー立山カルデラ砂防博物館2013「イベントニュース10月号」 |
| 21 | 黒姫山のカルデラ | 長野県 | 上水内郡信濃町 | 約5万5千~4万3千年前に形成された。 |
| 22 | 大峠コールドロン | 愛知県 | 北設楽郡東栄町・設楽町・豊根村 | 火山性陥没構造をコールドロンという。約15Ma~13Maの年代測定結果を得ている。-下司2003 地質学雑誌 第109巻 第10号 P580-594. |
名称のリンク先は国土地理院の火山による地形サイト
中国・九州のカルデラ
| ID | 名称 | 都道府県 | 所在地 | 備考 |
| 23 | 三瓶山 | 島根県 | 大田市,飯石郡飯南町 | 約10万年前、約7万年前、約4万年前の活動期には、多量の軽石をともなう噴火によりカルデラが形成。 |
| 24 | 妙見カルデラ | 長崎県 | 雲仙市 | 約2万年前の妙見岳山頂部の. 爆発による崩壊で形成。 |
| 25 | 野岳カルデラ | 長崎県 | 雲仙市,南島原市 | 約7万年~15万年前に形成。 |
| 26 | 阿蘇 | 熊本県 | 阿蘇市,阿蘇郡高森町・南阿蘇村 | 約 27 万年前から約 9 万年前までに繰り返 されたカルデラ噴火によって南北約 25 km,東西約 18 km の巨大なカルデラが形成され(Matumoto, 1943; 渡辺, 2001) |
| 27 | 加久藤 | 宮崎県 | えびの市 | 32万年前に形成。 |
| 28 | 姶良 | 鹿児島県 | 鹿児島市,垂水市,霧島市,姶良市 | カルデラ形成は約2万5000年前。 |
| 29 | 池田カルデラ | 鹿児島県 | 指宿市 | 約6,500年前以降。最新の噴火:4,900年前(鍋島岳) |
| 30 | 鬼界カルデラ | 鹿児島県 | 大隅海峡 | カルデラ形成は9万5000年前と7300年前。 |
名称のリンク先は国土地理院の火山による地形サイト










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