はじめに―地域の地質を、同じ時代で並べてみる
地質年代については、これまでにも何度か概略をまとめてきた。また、日本列島がどのように形成されたのかについても、付加体や日本海の形成、地形の変遷などを紹介してきた。


各地域の地質について調べていると、その地域の地史はかなり詳しく知ることができる。
岩手県なら南部北上帯や北部北上帯。
山口県なら秋吉台。
岐阜県なら美濃帯。
高知県なら黒瀬川帯や四万十帯。
ところが、それぞれを個別に読んでいると、
「同じころ、ほかの地域では何が起きていたのだろう」という関係が意外とわかりにくい。
たとえばペルム紀。現在の岩手県に残る地質体では浅い海が広がっていた。一方、現在の山口県にある秋吉石灰岩は、大洋上の海山に発達した石灰岩礁だった。
岐阜県の美濃帯に残るチャートの一部は、さらに深い海底で堆積していた。
現在では、すべて日本列島の中にある。しかし当時は、まったく異なる環境にあった。そこで今回は、現在の県境をいったん横に置き、地質年代という同じ時間面で、日本各地に残る地質を並べてみたい。地質年代という同じ時間面で、日本各地に残る地質をみてみよう。
地質年代ごとに、日本各地の地史を横にみてみよう
表の読み方
ここで一つ注意しておきたい。
「シルル紀の岩手」「ペルム紀の山口」という表現を使うが、その時代に現在の位置に岩手県や山口県があったわけではない。
現在そこに残っている岩石や地層が、その時代につくられたという意味である。
地質体そのものが移動した場合もある。
海洋プレートに乗って運ばれてきた岩石もある。
大陸から削られ、礫や砂となって運ばれてきたものもある。
したがって、現在の地図はいったん頭から外したほうがわかりやすい。
現在の日本列島は、異なる時代、異なる場所でつくられた地質体が、長い時間をかけて組み合わさったものなのである。
日本列島の地質構造そのものについては、こちらの記事で詳しく紹介している。

※「シルル紀の岩手」「ペルム紀の山口」などと表現していますが、その時代に現在の位置に岩手県や山口県が存在したという意味ではありません。
現在その地域に残っている岩石や地層が、その時代につくられたことを示しています。
また「先カンブリア時代」は冥王代・太古代・原生代をまとめた呼称で、「カンブリア紀」などの「紀」と同じ階層の年代区分ではありません。
本記事では、日本列島に残る古い記録を時系列でみるため、一つの項目としてまとめています。
| 地質時代 | そのころの主な環境・できごと | 代表的な地質体・地層(現在の地域) | 同時代でみるポイント |
|---|---|---|---|
| 先カンブリア時代(カンブリア紀以前) | 非常に古い大陸地殻が形成される。その一部は、のちに日本列島を構成する地質体の中へ取り込まれる | 津和野地域の花崗片麻岩(島根)/上麻生礫岩中の片麻岩礫(岐阜) | まだ「日本列島の地史」というより、日本列島をつくる材料がそれ以前に持っていた履歴をみる。津和野では約25億年前級の岩体そのものが確認され、上麻生では古い岩石が後の地層の礫として残る。 (広島大学) |
| カンブリア紀 | のちに日本列島へ組み込まれる地質体に、古い火成活動や変成作用の記録が現れる | 日立地域の大雄院花崗岩・変成岩類(茨城)/青海地域のヒスイ輝石岩類(新潟)など | 「古い石が残っている」だけではなく、当時活動していた地殻そのものの記録を追えるようになる。日立の大雄院花崗岩にはカンブリア紀の貫入年代が知られる。 (GSJ) |
| オルドビス紀 | 島弧性の火成活動が進み、古い島弧を構成する岩石が形成される | 神楽火成岩類・早池峰複合岩類(岩手)など | カンブリア紀の「古い地殻活動」から一歩進み、島弧という地質システムの姿がみえてくる。神楽火成岩類は南部北上帯に分布するオルドビス紀の火成岩類である。 (地質調査総合センター) |
| シルル紀 | 古い地質体の上に浅い海が広がり、サンゴなどの生物が生息する | 川内層(岩手)/横倉山周辺のシルル系(高知)/祇園山層(熊本) | 火成岩中心だった記録に、海と生物の記録が加わる。現在離れている古い地質体の浅海環境を比較できる。岩手の川内層からは、日本で最初に発見されたシルル紀サンゴ化石が知られる。 (岩手県公式サイト) |
| デボン紀 | 浅海環境が続き、化石群の地域差から地質体どうしの位置関係を考えられるようになる | 中里層・鳶ヶ森層(岩手)/黒瀬川帯のデボン系(高知・熊本など) | 化石を使って古地理を考える時代としてみる。中里層の腕足類には内蒙古西部との強い類縁性が報告されている。 (J-STAGE) |
| 石炭紀 | 浅い暖かな海では石灰岩やサンゴ群集が発達する一方、大洋上の海山にも石灰岩礁が成長する | 日頃市層・鬼丸層・長岩層(岩手)/秋吉石灰岩(山口)/青海石灰岩(新潟) | 同じ時代に、島弧・大陸縁に近い浅海と、大洋上の海山の礁が存在したことを比べる。秋吉帯・青海石灰岩には石炭紀~ペルム紀の海洋島起源の石灰岩が残る。 (GSJ) |
| ペルム紀 | 浅海では石灰岩などが堆積し、大洋上では海山礁が発達する。遠洋の深海底ではチャートが堆積する | 坂本沢層・叶倉層(岩手)/秋吉石灰岩・秋吉帯(山口)/青海石灰岩(新潟)/のちに美濃帯などへ取り込まれるチャート | 浅海・海山・深海という、同時代の異なる環境を一枚に並べる。後にこれら別々の場所の岩石が、日本列島の中へ集まってくる。 (GSJ) |
| 三畳紀 | ペルム紀末の大量絶滅後、海の生態系が回復する。浅海では海生生物が暮らし、遠洋ではチャートの堆積が続く | 稲井層群(宮城)/美濃帯・足尾帯などの三畳紀チャート/北部北上帯に含まれる三畳紀チャート(岩手など) | 生物が暮らす浅海と、陸から遠い深海底を対比する。ジュラ紀に付加される岩石が、このころすでに大洋底で形成されていたこともわかる。三畳紀チャートはジュラ紀付加体中に広く残る。 (GSJ) |
| ジュラ紀 | 海洋プレートが大陸縁へ沈み込み、海底で形成された岩石や海溝堆積物が大規模に付加される | 北部北上帯(岩手・青森)/美濃―丹波帯(岐阜・滋賀・京都・兵庫など)/秩父帯(関東~九州) | ここでは個々の岩石より、日本列島の土地そのものが海側へ増えていく過程が主役になる。美濃・丹波帯などのジュラ紀付加体には、玄武岩・石灰岩・チャート・泥岩・砂岩などが組み込まれる。 (GSJ) |
| 白亜紀 | 陸上には恐竜などが暮らす環境があり、地下では大規模なマグマ活動や変成作用が起こり、海溝では付加作用も続く | 手取層群(福井・石川・岐阜など)/領家帯(中部~近畿など)/三波川帯(関東~四国)/四万十帯(紀伊・四国・九州など) | 地表から地下深部、海溝までを同じ時間断面でみる。領家帯には高温低圧型の変成岩・花崗岩類、三波川帯には低温高圧型変成岩類、四万十帯には白亜紀付加体が残る。 (GSJ) |
| 古第三紀 | 日本海が開く前の大陸東縁で、陸上には森林や湿地を伴う堆積盆が発達する一方、太平洋側では付加作用が続く | 石狩層群(北海道)/筑豊・唐津などの夾炭古第三系(九州北部)/四万十帯の古第三紀付加体(紀伊・四国・九州) | 陸側の堆積盆と、海側の活動的な沈み込み帯を同時にみる。まだ「現在の島国としての日本列島」になる前の姿である。四万十帯には白亜紀から古第三紀以降の付加体が分布する。 (GSJ) |
| 中新世 | 日本海が拡大し、大陸縁だった地域が移動する。各地で沈降・海進・火山活動が起こり、伊豆―小笠原弧も本州側へ接近・衝突する | グリーンタフ地域の新第三系(東北日本海側・新潟など)/瑞浪層群(岐阜)/丹沢層群など(神奈川・山梨) | 各地域の海成層や火山活動を、日本海形成と島弧再編という列島規模の事件としてまとめてみる。古地磁気からも中新世中頃の日本海拡大が復元されている。 (GSJ) |
| 鮮新世 | 日本列島の圧縮・隆起が強まり、山地が成長する一方、内陸の盆地や湖には厚い堆積物がたまる | 東海層群(愛知・岐阜・三重)/古琵琶湖層群(滋賀・三重)/大阪層群下部(大阪周辺) | 「古い岩石」と「現在の山や盆地ができた時代」は別であることを意識する。高くなる場所と、沈降して堆積する場所を一組としてみる。東海層群・古琵琶湖層群は鮮新世以降の陸成堆積盆を記録する。 (GSJ) |
| 第四紀~現在 | 氷期・間氷期による海面変動、河川の堆積、隆起・沈降、火山活動などによって現在の平野・台地・段丘が形成される | 上総層群・下総層群(千葉など)/大阪層群上部(大阪・兵庫など)/各地の段丘・沖積層・火山噴出物 | 長い地質史が、現在の地形・植生・土地利用、そして考古学や人類史の舞台へ直接つながる。上総層群は房総半島に発達する一連の海成層である。 (地質調査総合センター) |
一覧表から見えてくること
日本列島ができる前の地史
一覧表の最初をみると、先カンブリア時代からオルドビス紀までは、まだ現在の日本列島を考える段階ではないことがわかる。
先カンブリア時代にみているのは、のちに日本列島へ取り込まれることになる古い岩石である。
カンブリア紀になると、火成活動や変成作用など、その地質体で起きていた地殻活動そのものがみえるようになる。
さらにオルドビス紀には、島弧性の火成活動の記録が現れる。
つまり、
古い材料の履歴
→ 地殻活動の履歴
→ 島弧の形成
と、少しずつ土地の姿がみえるようになっていく。
日本列島の地史は、日本列島ができたところから始まるわけではない。現在の日本列島をつくる岩石には、それ以前の地球史まで残されているのである。

同じ時代でも、同じ場所にあったわけではない
シルル紀以降になると、化石や堆積環境の記録が増え、それぞれの地質体がどのような場所にあったのかを考えやすくなる。
ここで一覧表を横にみてみるとおもしろい。
たとえばペルム紀。
現在の岩手県に残る地層には浅い海の記録がある。
一方、山口県や新潟県に残る石灰岩は、大洋上の海山に形成された礁の記録である。
さらに、のちに美濃帯などへ取り込まれるチャートは、陸地から遠く離れた深海底でつくられていた。
現在では、すべて日本列島の中にある。
しかし当時は、浅海、海山、深海というまったく異なる場所にあった。同じ地質時代だからといって、同じ環境にあったわけではない。地質年代を横にそろえることで、現在の県境からはみえない、かつての空間的な広がりがみえてくる。
岩石ができた時代と、日本列島に加わった時代
もう一つ重要なのが、岩石がつくられた時代と、その岩石が日本列島の一部になった時代は、必ずしも同じではないということである。
たとえば三畳紀のチャート。
チャートは、陸から遠く離れた深海底でゆっくりと形成された。その後、海洋プレートに乗って移動し、ジュラ紀になると沈み込み帯で大陸側へ付け加えられていく。
現在、美濃―丹波帯や北部北上帯などにみられる付加体には、形成された場所も年代も異なる岩石が組み込まれている。
海山の玄武岩。
その上に形成された石灰岩。
深海底のチャート。
海溝にたまった砂や泥。
それらが長い時間をかけて一つの地質体になった。
つまり、海の底でつくられた岩石が、のちに日本列島の山になる。この時間差が、付加体を理解するうえで大切である。

同じ時代を、地表から地下までみる
地質年代を横に読むと、場所だけでなく、地球の「深さ」も同時にみることができる。
白亜紀がわかりやすい。
陸上には、恐竜などが暮らす環境があった。
その地下では、大規模なマグマ活動や変成作用が進んでいた。
さらに海溝では、新しい付加体が形成されていた。
つまり同じ白亜紀でも、
地表では生物が暮らし、
地下では岩石が変成し、
海溝では新しい地質体がつくられていた。
「白亜紀=恐竜の時代」とだけ考えるよりも、同じ時間断面を地表から地下までみることで、その時代の地球がずっと立体的にみえてくる。
大陸のふちから、日本列島へ
新生代になると、話の尺度が大きく変わる。
それまでみてきたのは、古い地質体や海山、付加体など、日本列島を構成する「材料」の履歴だった。
中新世になると、日本海が形成され、日本列島そのものの配置が大きく変わる。
東北日本海側、新潟、北陸、山陰などに残る海成層や火山岩も、地域ごとにみればそれぞれの地質史である。
しかし同じ時代として並べると、日本海の形成に伴う沈降、海の侵入、火山活動という列島規模の出来事としてみえてくる。
ここで、日本列島は現在の姿へ大きく近づいていく。
新生代については、別の記事で詳しくまとめている。

古い岩石の上に、現在の地形ができる
鮮新世から第四紀になると、現在の日本の景色に近づいてくる。ここで意識したいのが、岩石の年齢と、山や平野の年齢は同じではないということである。
何億年も前につくられた岩石が、ずっと後の地殻変動によって持ち上げられ、現在の山地をつくることがある。
一方では盆地が沈み、河川や湖に堆積物がたまる。
第四紀になると、海面変動、河川、火山活動、隆起や沈降によって、現在の平野や台地、段丘が形成されていく。
そして、その上に人類の生活痕跡が残される。
ここまでくると、
地質
→ 地形
→ 植生
→ 人の土地利用
→ 考古学・歴史
というつながりがみえてくる。
何億年も前から始めた地史が、最後には私たちが暮らしている土地へ戻ってくるのである。
地質図や博物館で、土地に戻ってみる
気になる地質体があれば、地質図で現在の分布を確認してみるのもおもしろい。
一覧表では時間をそろえて各地域を「横に」みた。
今度は、一つの地域へ戻って地質図をみれば、その土地の歴史を「縦に」読むことができる。
さらに地域の博物館へ行けば、岩石や化石、地質図を実際に見ることができる。
各地域の博物館については、実際に訪れた施設をこちらの記事に随時追加している。

まとめ
日本列島の地質を地域ごとに調べると、その土地の地史を詳しく知ることができる。
一方、同じ地質年代で各地域を横に並べると、別の姿がみえてくる。
地質年代は、単に古い順番を覚えるためのものではない。
離れた土地の記録を、同じ時間の中へ置き直すための物差しでもある。
現在の県境をいったん外してみる。
すると、日本列島が一つの場所、一つの時代につくられたものではなく、異なる場所と時間を経験してきた地質体の集まりであることがみえてくる。
自分の地域の地質を一つ調べたら、次は同じ時代の別の地域もみてみてほしい。
そこから、日本列島全体の地史が少しずつつながってくる。









コメント