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ダム湖に沈んだ暮らし

あなたにとって「ダム」は身近だろうか。
この記事に検索で来られた方は「ダム」とつながりがある方なのかもしれない。
しかし、日本人の多くにとっておそらく「ダム」は身近でないだろう。

本記事では日本のダムについて概観を述べたあと、ダムに沈んだ人々の暮らしについて紹介する。

この記事をきっかけに「ダム」を少しでも知ってもらえたらうれしいです

目次

日本のダムについて

日本には約2700基のダムがある。目的は主に治水(洪水調整・河川維持など)、取水(上水・農業・工業など)、発電である。総貯水容量のTOP3は、1位:徳山ダム(660,000千m3)、2位:奥只見ダム(601,000千m3)、3位:田子倉ダム(494,000千m3)である。堤体の高さTOP3は、1位:黒部ダム(堤高186m)、2位:高瀬ダム(堤高176m)、3位:徳山ダム(堤高161m)である。

今回ダムを調べるのに参考にしたサイト

ダム建設による移転

ダムは山村地域に建設されたため、水没する村落について社会問題として大きくとりあげられてきた。水没する村落は金銭的な補償を受け、妥協のあらわれとして移転する。村落移転は山村地域の社会変容に大きな影響を及ぼした。

人文地理学者による水没村落の動向について興味深い論文があるので紹介する。

本研究は,ダム建設にともなう水没村落の移転形態が類型化できることに注目し,さらにその移転形態のちがいを村落構造との関連において明らかにしようとした。それは,ダム建設により水没移住という大きな外部からの刺激が村落にかかった際に,そこにはじめて潜在的にあった本来の村落構造が示されると考えられたからである。そして近畿圏において集団移転率を指標として建設年代との関係でみてみると,建設年代が近年になればなるほど集団移転率が高くなっていることが示され,さらに最近15年程の間においては集団移転率の高いグループと低いグループの2類型の存在が明らかになった。そのさい,この2類型の示される背景については,補償のあり方が個々によって異なっているとは考えられないことから,水没村落側に何らかの要因があると考えられた。

本研究における事例研究においては同族結合村落的性格=個別拡散移転(分裂),講組結合村落的性格=集団移転(維持)という村落構造と移転形態のあいだに対応関係が認められた。これらこの二つの事例の示した移転形態は,行政当局と水没者の間に何らかの因果関係,つまり十津川村の水没者軽視,今庄町の水没者重視という補償交渉過程における行政サイドの対応,また事業主体の対応があったとしても,水没移転者自らの設定により形成されたものであることを強調したい。それはまさしく村落構造の性格に依拠するものであったといえる。

ダム建設により,多くの村落が崩壊し,山村部において大きな社会問題となったことは周知のとおりである。それは村落再編成という点に立てば補償解決の中心が金銭補償であったため分裂が生じたり,種々の条件が村落再編成を困難にしたものと思われ,理論的には村落社会に応じた補償方法をとることの肝要さをこの事例が示唆しており,今後この点についても研究の必要性のあることが示され,筆者も理論と現実のギャップを今後多くの事例検証をふまえて究める必要性を認識した。

西野寿章(1981)「ダム建設にともなう水没村落の移転形態と村落構造」人文地理 第33巻 第4号

「大きな社会問題となった」とある上記研究はわずか40年前のことである。Youtubeでも水没村落について取り上げている動画があったので紹介したい。

目屋ダム@青森県
小河内ダム@東京都

裾花ダムの事例

ダムの大切な保守管理業務に、貯めておくことができる水量の把握がある。そのため定期的にダム貯水池の地形を計測し、地形の変化を調べることにより水量を把握している。堆砂測量とよばれる測量は湖底の地形を計測するため、湖底に沈んだ村落の跡が測量により見えることがある。疑問に思い調べてみた。すると「裾花渓谷の民俗ー裾花川ダム水没地区民俗資料緊急調査ー」という民俗調査報告書を発見した。湖底に沈んだ暮らしがあったのだ。

裾花ダムまでズームし川沿いに動きます

移転した世帯は35世帯だった。調査は昭和42(1967)年10月12日から44(1969)年3月31日にかけて長野県教育委員会が国庫補助により実施した。裾花ダムの着工が1962年、竣工が1969年であり、調査は工事と並行して実施されたようだ。移転先は同村近隣、長野市、首都圏など様々だった。調査項目は下記のとおり。

  • 地区の概観
  • 衣食住
  • 生産
  • 交通・運輸・通信
  • 交易
  • 社会生活
  • 信仰
  • 民俗知識
  • 人の一生
  • 年中行事
  • 口頭伝承

抜粋して引用する。

信仰
旱魃の時、農民が戸隠神社に雨乞いする習俗は広く古くからあった。中社の奥の念仏池から水をもらって来て雨を祈ったのである。念仏池は砂地から水が湧き出し、大声を出したり大地を強く踏むと大いに湧き出すといわれている。ここは信州だけでなく、遠く越後方面からも樽を持って水をもらいに来るのであった。越後との関係が深かったことは、九頭竜神は頭が戸隠にあって尻尾が糸魚川にあり、排出物はかの地に出るから越後は肥え地で米がよくとれるという伝承があることからも考えられよう。

長野県教育委員会(昭和46年12月10日)戸隠村の民俗 長野県民俗資料調査報告11 P45

年中行事
小正月 -鳥追い
十四の晩、ヌルデの木で、杵の形をつくる。これで柱をはたいたり、庭に棹をつるしてはたいたりして鳥追いをする。
十五の朝早く、歌をうたって、鳥追いに家々をまわって歩く。
    今夜どんの鳥追いだ
    すずめどんの鳥追いだ
    つばくろどんの鳥追いだ
    ふたつに割って醤油つけて
    みっつに割ってみそつけて
    よっつに割ってよ(湯)にふてて
    佐渡が島へ ほりやーえ ほりやーえ

長野県教育委員会(昭和46年12月10日)戸隠村の民俗 長野県民俗資料調査報告11  P69

口頭伝承
昔話 ー猿の嫁
お爺さんは、団子を持って山畑へ仕事に行ったが耕すに骨が折れて困っていた。そこへ猿が来た。お爺さんは早速猿に耕してくれれば三人娘の中一人を嫁にやると約束して仕事を終え家に帰った。翌朝、朝飯になってもお爺さんが起きてこないので、心配した長女は起こしにいくと、実は頼みがある。猿のところへ嫁に行ってくれないかと言った。長女はあかんべいをした。次に次女が呼ばれたが、これもあかんべい。併し、三女が承諾した。嫁にいった三女はさと帰りに猿に団子を背負わせたが、その容器は櫃(ひつ)や重箱が香があってお爺さんが嫌うから、たち臼のままがよいと言った。さて出発して途中傾斜の急な土堤にさしかかると、きれいな花が咲いていた。嫁はその花が欲しいと言う。猿はそれを採ろうとして崖をころげ落ちて死んだ。三女はさっさと実家へ帰ってきた。

長野県教育委員会(昭和46年12月10日)戸隠村の民俗 長野県民俗資料調査報告11  P72

ダムから少し脱線するが、伝承に新潟が含まれていることが興味深い。下記に引用したサイトは新潟の昔話を紹介しているサイトだがよく似ている昔話が掲載されている。

越後の民話のもっともポピュラーなものといえば、真っ先にサル婿入りを上げなければならない。(略)サルの嫁となるべき娘が、知恵を働かせてこれを逃れたという異類婚姻譚の一種。『日本昔話事典』によれば、この話は全国各地に伝承されていて、結婚後の里帰りにサルを入水させる型と嫁入りの途中に入水させる型に分れ、前者は、東北・関東・中部地方に分布し、東北型と呼ばれ、嫁入りの途中で、水瓶を背負って川に入らせ、サルが深みにはまって死んでしまう西日本型の嫁入り型は、近畿・中国・四国・九州に伝承するという。

引用元: サル婿入り民話【昔話の世界をのぞく】

水没する村落の記録は残されたものの、人々の暮らしはダム建設により移転と変化を余儀なくされた。
建設されたダムの主な目的は洪水調節機能、上水用水、発電である(長野県HP:裾花ダムの概要)。のちに洪水調節機能を果たし多くの命が守られたと報じられている。

もし上流にダムがなく、洪水調節がなされなかったとすれば、水位は0.9m程度高くなったと推定され、洪水が裾花川から溢れて街の中へ氾濫し、大きな被害を引き起こしたものと思われます。奥裾花ダムと裾花ダムで約90万m3の土砂を止めました。

引用元: あなたの街はこうして大災害からまぬがれた!~裾花ダム・奥裾花ダムの効果~

また、裾花ダムにより発電された電気は中部電力に売電されている(裾花発電所)。

おわりに

ダム建設により多くの山村の暮らしが変化を余儀なくされた。わたしたちが得た「利便性」の代わりに失われたものはなんだろうか。伝承や生業など記録に残されているが、それは記録されていればそれでよかったのだろうか。

余談だが裾花ダムの民俗調査に記録されていた鳥追いの風習は十日町の山奥のある集落でもおこなわれていた。十日町のその集落では子供がいなくなり風習が途絶えた。その後、大地の芸術祭という地域おこしのイベントで集落に訪れたひとりの芸術家が、連れてきた学生たちとその集落の鳥追いを復活させた。復活した鳥追いをこの目で見た私は体験により風習が伝承されることを肌で感じた。

まだ、まにあうものがあるだろうか。

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