はじめに
大雨や地震は地球の自然現象である。洪水や崖崩れが起きても、そこに人や人の財産がなければ、被害は発生しない。つまり、それは災害ではない。
災害リスクとは自然現象が起こる頻度と危険性の大きさにより決まる。地形や地質は過去の自然改変の履歴によりつくられている。したがって地形や地質を知ることにより過去の自然改変も知ることができる。
現在、日本では地形や地質は地図として整備され公開されている。本記事では住んでいる地域の災害リスクを地図から調べる方法を紹介する。
災害リスクを調べる方法
一番わかりやすい地図は『ハザードマップポータルサイト』である。ハザードマップポータルサイトは関係各機関のハザードマップを網羅的に確認できるように国土交通省 国土地理院 応用地理部が運用しているまとめサイトである。公式の使い方解説も同サイトにまとめてある。危険を知るために整備された地図なので便利である。
しかし、私は自分で地図がつくりたい!ので、どんなデータを使用し地図をつくったか、紹介したい。
QGISのインストールなど初期設定は、下記記事をご参考ください。
下記は日本のある地域について複数の公開地図データを表示させたものである。地図情報の出典は各地図のキャプションに記載した。
航空撮影した空中写真
上図は全国シームレスの最新空中写真である。高画質の空中写真は日本地図センターで購入することができる。
航空機から撮影した「空中写真(航空写真)」は、撮影時の状況がそのまま記録されている。空中写真は地表の連続写真を撮影したものであり、2枚の空中写真を使うと重複部分の立体視(実体視)ができる。空中写真の立体視は実態より高低差が強調されるため、微妙な高度差を確認しやすい。
国内では国土地理院や林野庁、海上保安庁、都道府県等の各機関により空中写真が撮影されている。国土地理院と第二次世界大戦後に米軍が撮影した空中写真は国土地理院タイルから参照しQGISで重ねて表示できる。
地質図
上図は地質図を示す。
都市が発達している場所は山地ではなく低地が多い。低地は河川などの水によって運ばれてきた砂や泥が堆積して形成された地形を指す。
上図の地質図をみると、低地は青い地質と黄色い地質とがまだらになっているのがわかる。
上図を拡大してみると、「b」という青い部分と、「n」という黄色い部分で構成されている。「b」は後背湿地堆積物、「n」は自然堤防堆積物と地質図凡例に示されていた。
河川の氾濫などの増水時には、被害の程度が河川との比高差に左右されることが、過去の災害調査からわかっている。また、ゆるく堆積した砂や泥などの地盤では地震時も地震動の増幅や液状化によって大きな被害が生じることがある。特に旧河道や後背湿地を埋め立てて造成したような土地では、液状化が発生しやすいといわれている。
QGISに地質図を表示させる方法は下の記事に書いた。
治水地形分類図
地質図の凡例は複雑でわかりにくいことが多いため、さらに活用しやすい地図として、国土地理院が整備している治水地形分類図がある。
日本の人口・資産の大半が集中している都市部のほとんどは平野に立地し、その平野の大部分は河川の運んだ砂礫などによって形成された堆積平野です。土砂の堆積は 、 主として洪水時に行われることから、この砂礫が堆積して形成された地形は過去に繰り返し起こった洪水の結果を示しています。
出典:2022年1月発行「国土地理院技術資料D1 No.1029」
そして、 平野の起伏 が わずかであっても、 その成り立ちの違いを反映しています。この 平野に分布する地形の持つ性質 や 条件(地盤高 、 表層の土質 など )を調査して分類 ・ 図示し、堤防 など の人工構造物の分布状況 など も加えて考察すれば、単に過去の洪水の様子だけでなく、浸透による破堤 など が発生しやすい場所の推定や、将来、破堤・氾濫が起こった時の洪水流の主な流動方向、湛水深の深浅、湛水時間の長短などの予測も可能となります。
治水地形分類図では、特に治水対策にかかわりの深い河川や海の作用により形成された「低地」が主対象となっている。洪水を受けやすい地形要素について詳細に分類され表示されている。
地質図で表示させた範囲と同じ範囲で治水地形分類図を表示させてみると、西側の山地から東側の広い低地にむかって扇状地が広がっていることがわかる。扇状地では大雨をきっかけとして土砂災害が発生することがある。谷の出口にあたる頂点を扇頂といい、中腹を扇央、先端を扇端と呼ぶ。扇端部では地下水位が浅いことが多いため、地震の際に液状化の被害に注意が必要である。
旧河道は河川が流れていた跡の地形であり、周囲の氾濫平野より低く、現在でも地表水が溜まりやすい傾向がある。そのため、わずかな降雨でも浸水しやすく、浸水深・浸水時間共に大きくなる傾向がある。また、軟弱地盤であるため地震時に液状化が起きやすい。
治水地形分類図は人口改変地形も含めた情報が地図として整備されている。そのため、防災地理情報として重要な地図である。
治水地形分類図の地形特性情報は、水害、土砂災害、地震災害などの自然災害に対する災害リスクを多面的にとらえることができます。この地形特性情報を読み替えることで、いろいろな自然災害の災害リスクを検討することが可能と考えます。
出典:2022年1月発行「国土地理院技術資料D1 No.1029」P18
近年、気候変動による豪雨の頻発化・激甚化が一層進み、これを見据えた「事前防災対策」が叫ばれています。堤防やダムの建設などによるハード面での治水対策を進めるとともに、自分の住んでいる場所が、「どのような土地(地盤)なのか」「どのような自然条件を持っているのか」「どのような災害が起こる可能性があるのか」「どうすれば被害を最小限にすることができるのか」といった防災に対する意識を平時から持っておく必要があります。それらを知ることのできる地形分類は重要な基礎情報といえます。自然災害に対する被害の軽減のため、治水地形分類図を利活用していただければ幸いです。
旧版地形図
次に今までの地図と同じ範囲で「旧版地形図」を表示させた。
旧版地形図とは明治期から昭和初期、大規模開発が行われる以前に国土地理院や前身である陸地測量部により作成された地形図である。大規模開発前の地形や土地利用をみることができる。
国土地理院および地方測量部の窓口にて1枚数百円で購入できるほか、埼玉大学教育学部の谷謙二氏が運営する「今昔マップon the web」では全国11地域の新旧地形図を切り替えて表示させることができる。
今回は今昔マップで公開されているURLを参照して、QGISに表示させた。当時の旧河道や後背湿地周辺の土地利用が確認できた。
地すべり地形分布図
最後に山地における災害リスクとして地すべりについて地図を使って確認した。
陸上の斜面は、斜面上方から下方へ移動し、変化し続けている。これら移動のうち、規模が大きく速度が遅い現象に対して「地すべり」の語が用いられてきた。地すべりは斜面の上部に急な斜面(滑落崖)、斜面中腹から下部に小規模で低いピーク、すべった土塊(地すべり移動体)は下部で押し出されてこんもりとした緩やかな地形をつくる。
空中写真や地形図から地すべり地形を判読することは、熟練の技術が必要となるが、現在では国立研究開発法人 防災科学技術研究所が公開している地すべり地形分布図をQGISで確認することができる。
地すべり地形分布と地質や陰影図などを重ねるとどのような地形や地質が地すべり地形なのか理解できる。
おわりに
本記事では住んでいる地域の災害リスクを地図から調べる方法を紹介した。全国の地形や地質に関するデータは広く公開されており自身で調べることが可能である。
さいごに私一人の力ではここまで調べることができなかった。先人たちのあくなき探求と地道な調査の積み重ねに感謝したい。
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